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総合診療医(1)その役割と現代医療における必要性

総合診療医(1)その役割と現代医療における必要性

公開日:2025.10.23

日本の医療において、総合診療医の重要性は、近年急速に高まっています。2018年には、日本専門医機構が「総合診療」を19の基本領域の一つとして正式に認定し、専門分化が進む中でジェネラリストの役割が改めて注目されるきっかけとなりました。総合診療専門医制度の創設は、日本の医療制度における大きな転換点といえます。第1回では、総合診療医の役割や現代医療における必要性についてまとめます。

総合診療医を求める社会的背景

今日の社会は、急速な高齢化、医療の専門分化、地域医療の偏在といった複合的な課題に直面しています。高齢者の多くは複数の慢性的な病気を抱え、都市部に専門医が集中する一方で地方では医師不足が深刻化するなど、従来の臓器別・疾患別の専門医療だけでは対応しきれない状況が生まれています。さらに、医療のパラダイム自体が病気中心・医師中心から、患者の価値観や生活背景を重視する「患者中心の医療」へと転換しており、より包括的で人間的な視点が求められています。こうした背景のもと、幅広い医療領域に対応し、患者を全人的に診る総合診療医の存在が不可欠となっています。

総合診療医の本質と特徴

総合診療医とは、臓器別・疾患別・年齢別といった従来の医療の枠組みを超えて、患者を「全人的」に診る医師です。単に病気を治療するだけでなく、患者の生活背景や家族環境、価値観、社会的状況までを踏まえた医療を提供します。この包括的な視点は、細分化・断片化しがちな現代医療に対する有効な対抗軸となります。総合診療医は、患者を一つの臓器や病気の集合体としてではなく、身体的・心理的・社会的要素が複雑に絡み合った統合的な存在として捉える姿勢を持ち、この視点こそが総合診療医の本質を形づくっています。総合診療医の活動領域は多岐にわたり、地域医療、在宅医療、救急対応、慢性病管理など、幅広い分野で重要な役割を担っています。

総合診療専門医制度の概要

2018年に日本専門医機構は「総合診療」を19の基本領域の一つとして正式に認定しました。総合診療医として認定されるには、厳格な研修プロセスを経る必要があります。医学部卒業後、医師免許を取得し、2年間の初期臨床研修を修了した後、日本専門医機構が認定する「総合診療専門研修プログラム」に所属し、3年以上の専門的な研修を受けなければなりません。
研修は「総合診療専門研修 I」(診療所や中小病院)と「総合診療専門研修 II」(病院の総合診療部門)に分かれており、それぞれ6カ月以上、合計で18カ月以上の研修が求められます。
臨床研修では、外来医療、病棟医療、救急医療、在宅医療、地域ケアの5つの現場で多様な症例を経験します。また、初期対応が必須とされる病態への対応、必要な手技や手術の習得、学術活動への参加についても、定められた達成基準を満たすことが要求されます。
医師臨床研修を終えた若手医師が、専門医制度において「総合診療専門医」をめざして進む研修プログラム(専攻プログラム)の応募・採用数は年々増加し、2024年は290人でした。3年の研修を経て試験に合格した専門医は2024年4月時点で658人です。未だ数が少ないのが現状ですが、総合診療専門医は今後確実に増えていきます。
さらに、総合診療専門医を基盤として、「新・家庭医療専門医」や「病院総合診療専門医」といったサブスペシャリティ領域の専門資格も整備されており、より高度な専門性を追求する道も開かれています。

プライマリケアの本質的特徴

総合診療医が実践するプライマリケアには、いくつかの本質的な特徴があります。
まず「継続性」が挙げられます。これは、患者との長期的な関係を築きながら、人生の各段階に寄り添って継続的なケアを提供するというものです。こうした関係性により、患者の健康状態の変化を長期的に把握することができ、より的確な医療判断が可能となります。
次に「包括性」があります。プライマリケアでは、特定の疾患に限定することなく、患者が抱える多様な健康問題に幅広く対応します。その結果、患者は複数の専門科を渡り歩く必要がなくなり、効率的かつ負担の少ない医療を受けることができます。
また「協調性」も重要な要素です。看護師、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーなど、さまざまな職種と連携しながら、患者にとって最適なケアプランを策定・実行します。総合診療医はチーム医療の中核として機能し、より質の高い医療の提供に貢献しています。
さらに「アクセス性」も欠かせません。プライマリケアは地域住民にとって身近で気軽に相談できる医療の窓口として機能し、医療への入り口として重要な役割を果たしています。

現代社会における総合診療医の必要性

高齢者の多くは複数の慢性病を同時に抱えており、臓器別の専門医療では十分な対応が困難です。総合診療医による包括的なアプローチが、複雑な健康問題を総合的に管理し、患者の生活の質向上の鍵となります。地方や過疎地域での医師不足が慢性化する中、一人で幅広い医療ニーズに対応できる総合診療医は、地域医療提供体制の維持・充実において極めて重要な役割を果たします。総合診療医による適切な初期対応と専門医への振り分けは、不要な検査や受診を減らし、医療費抑制と医療資源の有効活用に大きく貢献します。

患者中心の医療の実現

総合診療医の全人的アプローチは、患者の価値観や生活状況を重視する新たな医療パラダイムの中核を担い、真の患者満足度向上を実現します。総合診療専門医制度の確立は、専門分化の利点を否定するものではなく、それと並行してジェネラリストとしての総合診療医の価値が社会的に再認識されたことを意味します。
今後、地域包括ケアシステムの中核を担う人材として、総合診療医への期待はますます高まると考えられます。医療の質と効率性の両立、患者満足度の向上、地域医療の持続可能性の確保といった多面的な課題に対して、総合診療医が果たす役割は極めて重要です。
日本の医療制度がより患者中心で持続可能なものへと進化する過程において、総合診療医は単なる一専門領域を超え、医療制度全体の要として機能することが期待されています。この期待に応えるためにも、総合診療医の育成と社会的認知の向上が、今後の重要な課題となります。

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アソースナビ編集部

メディアスグループは、医療機器の販売を中心とした事業を展開しています。医療に携わる私たち(Medical+us)は、医療現場や人々の健康的な明日へ役立つ情報をお届けする情報発信源(Media)の役割も果たしていきたいと考えています。

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