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公開日:2025.12.18
医療の現場では、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けるための新しい技術が次々と導入されています。その中でも近年急速に注目を集めているのが遺伝学的検査です。一般には「遺伝子検査」と呼ばれることが多く、耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。血液や組織から得られる遺伝情報を分子レベルで解析することで、病気の原因や体質を明らかにし、診断や治療方針の決定に直結します。がん治療の精度向上や出生前診断、薬の効果や副作用を予測する薬理遺伝学検査など、応用範囲は拡大の一途をたどっています。第1回目は、医療機関で行われる遺伝学的検査の現状について解説します。
がん治療や出生前診断の分野では、遺伝学的検査が診断や治療方針の決定に直結する検査として位置づけられ、医療の質を大きく変えつつあります。こうした技術は、患者さんごとの特性に合わせた治療を可能にする個別化医療の基盤として、現代医療に不可欠な存在となっています。
医療機関で行われる遺伝学的検査には、大きく三つの目的があります。第一に、遺伝性疾患の診断です。家族性の病気や先天性疾患の原因を特定することで、早期診断や予防的対応が可能になります。筋ジストロフィーや遺伝性乳がん卵巣がん症候群などは特定の遺伝子変異との関連が明らかになっており、検査によってその有無を確認することで、患者さんやご家族に重要な情報を提供できます。第二に、がんの確定診断と治療方針の決定です。同じ臓器に発生するがんであっても遺伝子変異の種類によって性質は大きく異なります。腫瘍の分子プロファイルを明らかにすることで、抗がん剤や分子標的薬の選択を最適化し、治療効果を最大化することができます。そして第三の目的が、薬理遺伝学検査による薬物治療の最適化です。患者さんの遺伝的背景によって薬の代謝能力は異なるため、薬理遺伝学検査を行うことで「効きやすい薬」や「副作用が出やすい薬」を事前に予測でき、安全で効果的な薬物治療を実現します。
代表的な検査の一つに、がんゲノム検査があります。これは腫瘍組織や血液からDNAを解析し、がんの原因となる遺伝子変異を特定するものです。がんゲノム検査には、特定の治療薬の効果を予測するために少数の遺伝子を調べる「コンパニオン診断」と、一度に数十から数百の遺伝子を解析する「がん遺伝子パネル検査」があります。コンパニオン診断は原則1回に限り保険適用となり、費用は診断項目の数や検査方法によって異なりますが、2万5,000円から18万円程度(患者さんの自己負担は1〜3割)が目安とされています。がん遺伝子パネル検査は標準治療を終えた患者さんが対象で、こちらも1回のみ保険適用され、費用は約56万円(患者さんの自己負担は1~3割)となります。これらの結果に基づき、患者さんに最適な治療法を提示できる可能性があります。
出生前診断に用いられるNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)も重要な検査です。妊婦の血液から胎児由来のDNA断片を分析し、染色体の数的異常を検出します。妊娠10週から実施可能で、対象は原則35歳以上の妊婦に限られ、検査項目は13トリソミー(パトウ症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、21トリソミー(ダウン症候群)の三疾患に絞られています。精度は約99%と非常に高いものの、陽性判定が出た場合には羊水検査などの確定診断が必要です。費用は医療機関や検査内容によって異なりますが、一般的に10万円から20万円程度と見込まれています。
さらに薬理遺伝学検査も挙げられます。これは薬の効果や副作用の発現に影響する遺伝子の違いを調べるもので、患者さんごとに最適な薬剤や投与方法を選択し、効果を高めつつ副作用のリスクを抑えることを目的としています。特定の抗がん剤など一部の薬剤については保険適用が進んでおり、臨床現場での活用が広がっています。
医療機関で行う遺伝学的検査にはいくつかの明確なメリットが存在します。まず、厳格な品質管理のもとで実施されるため、診断や治療に直結する検査として高精度で信頼性が高い点が特徴です。次に、一部のがんゲノム検査や遺伝性疾患の検査は条件を満たせば公的医療保険の対象となり、患者さんの経済的負担を軽減できる可能性があります。さらに、検査結果は専門医や遺伝カウンセラーによって丁寧に説明される体制が整っており、患者さんや家族が十分に理解した上で治療方針を選択できるため安心感につながります。
一方で、解決すべき課題も少なくないとされます。個別化医療の広がりに伴い、患者さんごとに異なる治療法を選択できるようになったものの、医療体制や人材育成が追いついていない現状があります。特に遺伝カウンセリングの需要増加に対して専門家の数が不足していることは深刻です。さらに、出生前診断における「命の選択」の是非や、遺伝情報の取り扱いに関するプライバシー保護など、倫理的課題も社会全体で議論すべき重要なテーマです。加えて、検査費用が高額になる場合があることや保険適用の範囲が限定的であることも問題であり、すべての患者さんが必要な検査を受けられる環境を整備することが今後の大きな課題といえます。
医療機関で行う遺伝学的検査は、がん治療から出生前診断、薬物治療の最適化まで幅広い分野で活用されています。医療の質を飛躍的に向上させており、高精度で信頼性の高い検査として確立されつつあります。遺伝学的検査は未来の医療を形づくる重要な技術であり、患者さん一人ひとりに寄り添う医療の実現に欠かせない存在です。今後は、検査の普及とともに専門人材の育成や倫理的枠組みの整備が進められ、医療の新しいスタンダードとして定着していくことが期待されます。
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