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特 集

手術支援ロボットの適用拡大後の展開
泌尿器科領域が牽引か

今年度の診療報酬改定で手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を使う手術12件が新たに保険適用された。従来、保険適用されている2件と合わせて、14件となった。関連する診療科は泌尿器科の他、消化器外科、婦人科、呼吸器外科、心臓血管外科の5診療科に広がった。今回の保険適用では、診療報酬が通常の鏡視下手術と同額で、ロボットを使うことによる加算はなかった。保険適用の拡大による今後のロボット手術の展開を探ってみた。

患者の選択肢を広げる

2012年に前立腺がんの全摘除術に保険が初適用され、16年には腎がんの部分切除術に広がった。今回は、胃がん、肺がん、食道がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、縦隔腫瘍、僧帽弁閉鎖不全症などの弁形成術、子宮全摘術などが対象となった(表)。今回、保険適用となった12件のうち、1件(胃切除術)はすでに「先進医療B」で行われていたが、他の11件は先進医療を通さずに保険適用となった。現時点でダ・ヴィンチ手術は既存技術と比較して優越性の科学的根拠が確立されていないが、同等程度の有効性、安全性があると考えられ、内視鏡の操作性の高さや患者の選択肢を広げる観点から評価され、今回の適用拡大につながったとみられている。また、各学会がダ・ヴィンチ手術の保険適用を強く要望してきたことも要因の1つとされる。

術後合併症を減らせる可能性が

現在、ダ・ヴィンチ手術が最も多く行われているのは泌尿器科領域である。すでに保険適用となっている前立腺がんの全摘除術と腎がんの部分切除術は開腹手術や通常の腹腔鏡に比べ有用性が高いと評価され、診療報酬が加点されている。前立腺全摘除術の半数以上はダ・ヴィンチ手術によってなされている。前立腺を摘除した後、膀胱と尿道を繫げるが、通常の腹腔鏡下手術で使われる棒状の鉗子に比べ、鉗子の先が自由に曲がるため、骨盤の深いところでも細かい鉗子操作が可能となり、吻合が確実に行えるからだ。腎がんの部分切除術も手術件数が増え、腎機能温存、がん根治切除率において通常の腹腔鏡下手術に勝ることが確認されつつある。今回新たに保険適用された膀胱がんについても同領域ではダ・ヴィンチ手術に習熟した医師が多いだけに普及度が早いとみられる。特に膀胱を摘出した場合、尿路変更術が必要になり、ダ・ヴィンチ手術ならではの技術が発揮できるものと考えられている。

消化器外科領域では先進医療Bとなっていた「胃切除術」が順調に増えていくものとみられる。「直腸手術」についてはさらに精密な手術が可能になり、通常の腹腔鏡下手術に比べて術後の排便・排尿・性機能に関わる神経の機能温存率が高い可能性が期待されている。

心臓外科領域では、ダ・ヴィンチ手術は手技が難しいとされ、厚労省が定める施設基準でも、年間100例の開心術と20例の小切開心臓手術の実績が求められている。僧帽弁閉鎖不全症などが保険適用の対象になったが、順天堂大学医学部附属順天堂医院院長の天野 篤氏は「腹腔鏡や胸腔鏡を用いた一般の鏡視下手術では縫合と結紮がやりづらく、視野が狭い空間の中で精密に縫い合わせたり、糸で縛ったりする作業はかなりハードルが高い。これに対してダ・ヴィンチ手術では細かい動きを支援するシステムにより、縫合と結紮が容易にできる」と話す。現在、心臓手術にダ・ヴィンチを使用しているのは少数の施設であり、広がりにはかなりの時間を要するとみられる。 婦人科領域では、興味を持っているドクターは多いものの実施施設が少なく、普及には時間がかかりそうだ。呼吸器外科領域では、全症例の約90%で胸腔鏡下手術が行われている。ダ・ヴィンチ手術を行う利点が明確ではなく、安全性に配慮しながら、徐々に普及していくものとみられる。

トレーニング環境の整備が急務

日本ロボット外科学会の集計によると、2015年末でダ・ヴィンチ手術の手術件数の内訳としては、泌尿器1万2,404、消化器544、婦人科170、胸部外科110となっている。近年の医療機関における症例数では、東京女子医科大学病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、藤田保健衛生大学病院、東京医科大学病院などが上位を占めている。今回の適用の拡大を機に経験施設から徐々に増えるものと予想されている。ダ・ヴィンチの国内の普及台数は300台近くといわれる。他方、米国では2014年の段階で泌尿器9万1,000、消化器10万7,000、婦人科23万5,000と格段に多くの症例が行われている。ダ・ヴィンチ手術は機能上、深くて狭い骨盤内の手術に適していることもあり、米国では、婦人科の症例数が最も多くなっている。適応疾患は良性および悪性腫瘍と多岐にわたり、子宮体がんは患者数が多いとされる。我が国では通常の腹腔鏡下手術が広く行われており、ダ・ヴィンチ手術を実施している施設は少ない。

ダ・ヴィンチ手術の問題としては、器具が臓器に触れた感じが医師の手に伝わる触覚機能がないため、術者が誤って臓器を強く圧迫する恐れがあり、細心の注意が必要という。また、初期のモデルでは、アーム同士の干渉などもある(最新機種ではアームが細くなり、アーム同士の干渉は軽減している)。ロボット特有の事故が起きないようにするためには医師の熟練した技術が必要であり、術者の養成のためのトレーニングの環境を整える体制づくりが急務といえる。現在、販売会社のインテュイティブサージカルと藤田保健衛生大学病院にトレーニング施設があるが、10月まで予約で埋まっているという。

低価格の手術支援ロボットの登場も

今回の保険適用では、診療報酬が通常の鏡視下手術と同額で、ロボットを使うことによる加算はなかった。適用によって大幅な負担減になり患者にとっては朗報だ。しかし、病院側にとっては、本体価格2億〜3億円のほか、使い捨ての手術器具やメンテナンス費用(年間約2,500万円)など負担は少なくない。適用で症例数が増え、臨床試験で既存技術と比較して優越性を示せれば診療報酬で加点につながる可能性はある。前出の天野氏は「メンテナンスや減価償却を含めると、ダ・ヴィンチ手術は現状、採算が合わないだろう。自由診療で請求できる海外からの患者を増やすのも一つの方策だ」と話している。

国内外では、ダ・ヴィンチとほぼ同じ機能の手術支援ロボットの開発を複数社が進めており、数年後には1億円前後の価格での発売が見込まれている。低価格で性能の良い手術支援ロボットの出現もそう先ではないようだ。