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特 集

グッドデザイン賞2018から見た医療機器

デザインが優れた工業製品などに贈られるグッドデザイン賞。近年、医療分野の製品や取り組みなどが注目され、数多く受賞している。医療機器に求められるデザインは、使用する側の医療従事者と使用される側の患者の両方に配慮したデザインコンセプトが求められる。グッドデザイン賞2018の中から、このような観点も含め興味深い医療機器をいくつか紹介する。

設計、コンセプトに優れる

グッドデザイン賞は、公益財団法人デザイン振興会が主催し、デザインが優れた製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、幅広い事物を対象に贈られる。日本で唯一の総合的デザイン評価の賞である。かたちのある無しに関わらず人が何らかの理想や目的を果たすために気づいたものをデザインと捉え、その質を評価・顕彰している。

2018年度のグッドデザイン賞受賞対象を見ると、医療分野の製品が目立ち、医療機器を中心に30件以上受賞している。受賞した医療機器に共通するのは、いずれも設計、コンセプトに優れている点。医療分野の場合、キュレーター、デザイナー、医療専門家など異なる立場の審査員が各々の視点から評価を行っている。医療機器に求められるのは、機能性や医学的な有効性だが、そのデザインにも大きな役割と意味があるとされる。医療行為に使用するという性格上、医療従事者にとっては、安定感があり使い勝手のよいデザインが絶対的に求められる。一方、疾病や傷病を抱え、ともすると不安感を抱きがちな患者の求めるデザインは、安心感を醸成するデザインであろう。つまり、医療機器のデザインでは、医療従事者、患者の双方にとって優れた設計、コンセプトが重要となる。

在宅医療の現場で簡便にX線検査

今回、金賞を受賞したのは、富士フイルム(株)が開発したポータブルX線撮影装置「FUJIFILM CALNEO Xair」(写真1)。携帯性に優れ、在宅医療の現場で簡便にX線検査ができる。

受像部の高感度化により、低線量でも高感度の画像が得られ、総重量3.5kgの軽量・小型で携帯性、操作性に優れたX線撮影装置を実現した。一般的なポータブルタイプの装置に比べて、およそ半分の重量という。スペースが限られる在宅医療の現場で簡便なX線検査と画像確認ができる。また、装置の両サイドにボタン類を配置することで、本体を持ちながら親指1本でボタン操作を行うことが可能。さらに、従来よりも軽量なリチウムポリマーバッテリーを内蔵しているため、電源がない環境でも撮影ができる。災害現場でも活躍しそうだ。

患者にとっては、通院の負担が減るほか、放射線被曝低減の利点もある。また、身体的に不自由な患者を撮影する際は寝た状態で撮影するため、受像部を背中に挿入する。その際に生じる痛みにも配慮したデザインとなっている。

在宅で検査を行う医師や技師にとっては、機材運搬や撮影準備の軽減などに役立つ。国は、できる限り住み慣れた地域で療養ができるよう、在宅医療の普及に力を入れていく方針だ。今後、在宅医療を受ける高齢者が増えることで、誤えん性肺炎、腸閉塞、腰椎や四肢の骨折などの診断に必要なX線撮影の需要増加が見込まれている。

写真1. ポータブルX線撮影装置「FUJIFILM CALNEO Xair」

身につけて歩ける椅子

グッドフォーカス賞(技術・伝承デザイン)を受賞したのは、ウェアラブルチェア「アルケリス」(写真2)。(株)ニットーと西村拓紀デザイン(株)が開発した。大手術となると手術時間が10時間以上かかり、下肢にかかる負担は極めて大きいとされるが、アルケリスは手術室の執刀医および医療スタッフの長時間にわたる立ち姿勢による腰や足の負担を軽減するための「歩ける椅子」として開発された。鉗子による先端数ミリの縫合手術をはじめ、術中に姿勢変更と姿勢保持を繰り返しながら体幹の安定を求める外科医などを対象としている。足の筋肉に負荷を与えずに「歩く」、「座る」を可能にし、外科手術の高いパフォーマンスを引き出す。椅子は、左右にセパレートした構造により、姿勢に合わせて自由なスタンスで座れる。下肢の角度固定と身体にフィットするエルゴノミクスデザインによって脛と大腿部の広い面積によるサポートで圧力を分散しながら体重を支える仕組みだ。装着は簡単で、自分で足、脛、腿の3点ベルトを止めるだけですぐに使用できる。電源を使用しないため、他の医療機器への電波干渉を及ぼさない。医師の足腰の疲労で手術のパフォーマンスが十分発揮されなければ、患者にとっても不利益であり、今回開発された椅子は患者に安心感をもたらすものといえる。

手術室は医療スタッフが立ったまま施術することを前提に設計されている。執刀医は術中、患部の切除や吻合のため立ち位置を変える場合がある。また、床には医療機器のコードなどが幾重にも配置され、複数のスタッフが作業を行うため、椅子を置くスペースの確保が難しい。こうした難題を医工連携により克服した。

写真2.ウェアラブルチェア「アルケリス」

世界最軽量の折畳み式車いす

グッドデザイン賞を受賞したのは、橋本エンジニアリング(株)が開発した「マルチマテリアル製 超軽量折畳み式車いすX70」(写真3)。マルチマテリアル製法を用いて、一般的な車いすよりも車体重量が軽い7kg台の世界最軽量車いすを実現させた。X70(エックスナナマル)の名前の由来は重量7kgという意味。従来の重量の車いすに比べ、高齢者や障がい者、介助者にとって取扱いが容易である。デザインは、極太のフレームを採用することで、存在感と耐久性を向上させた。また、フロントフレームを強めにせり上がるデザインとし、強い躍動感を演出するとともに安全性の面にも配慮している。カラーリングも洗練されている。

現在、軽量といわれるアルミニウムフレーム製の車いすの重量でも約12kg。折り畳み式は固定式よりも部品点数が多く、パーツの繋ぎ部分も多くなるため、各部品に強度を持たせる必要があり、重量が重くなる。このため、高齢者や障がい者などが取り扱いに苦労している。

そこで、同社は軽量素材を適材適所に組み合わせ車体全体の軽量化を実現するマルチマテリアル化を追求。実用金属として最も軽いマグネシウム合金を使用し、剛性を確保しつつ、部品や部材の薄肉化などで軽量化を図った。マグネシウムは理想的な素材と考えられてきたが、加工が難しく敬遠されてきたが、同社の培ってきた溶接技術で難点を克服した。軽量化を可能にしたことで車いすの積み下ろしが格段に楽になり、車いすを使用する者だけではなく介助者の負担軽減にも貢献している。

写真3. 「マルチマテリアル製 超軽量折畳み式車いすX70」