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特 集

インペラの使用施設が着実に増加

心原性ショック等の薬物療法抵抗性の急性心不全症例に対するポンプカテーテル「インペラ」の使用が循環器救急に積極的に取り組む施設を中心に広がり始めている。従来の治療デバイスよりも心臓や身体への負担が少なく、血液の循環を補助でき、さらなる心原性ショック症例の救命率アップが期待される。

インペラの使用施設が着実に増加

世界最小のハートポンプ

インペラは、世界最小のハートポンプで、2017年9月から日本に導入された(2011年承認申請、2016年9月承認取得)。ドイツでは、2004年、米国では、2008年から発売され、海外では、既に10年以上の使用歴がある。インペラは、左心室に留置するポンプカテーテルと制御装置により構成され、血行循環の補助を行う(図1)。薬物療法に抵抗性のある心原性ショックなどによる急性心不全患者が適応となる。心原性ショックとは、心臓のポンプ機能の低下により、全身に十分な血液と酸素を供給できなくなることによって臓器不全を引き起こし、放置すると死に至る疾患。通常、心不全とともに起こる。心不全の10%に心原性ショックが起こり、そのうち、50%が死亡するとされる。

挿入方法としては、開胸せず、経皮・経血管的にポンプカテーテルを挿入し、左心室内に留置(図2)。ポンプ内の羽根車を高速回転させ左室内のカテーテル先端の吸入部から血液をくみ出して、大動脈に位置する吐出部へ送り出すことで、順行性補助循環を可能にしている。すなわち、心臓の代りに一時的に血液循環を行い、心機能の回復を促す。

順行性送血が可能

国内導入された製品としては、最大循環補助量が毎分2.5Lの「インペラ2.5」(ポンプ部の直径4.0mm)と、毎分5Lの「インペラ5.0」(同7.0mm)の2種類がある。経皮的に留置できる2.5は、AMIなどで多く使われている。5.0はカテーテルが太いため、外科的に挿入部に人工血管を装着する必要があるが、左室補助人工心臓(LVAD)に匹敵する循環血液量が得られる。今後は心臓移植を待つ患者への使用も期待されているという。基本的には、血圧の著しい低下など緊急度の高い患者に、3〜5日間を目安に用いられる。

これまで、心原性ショックには、IABP(大動脈内バルーンパンピング)やPCPS(経皮的心肺補助)が用いられてきた。しかし、特に重症心不全で用いられるPCPSは、本来の血液の流れる方向に対して逆行性となるため心臓へ大きな負担がある。また、順行性送血が可能なのものとしては、体外式/植込み型補助人工心臓があるが、開胸が必要などその侵襲性が高く、緊急症例には対応が難しいとされる。インペラは、それらの問題点を解決した補助循環デバイスといえる。

心筋炎・心筋症、AMIに使われる

関連する10学会・研究会より構成された補助人工心臓治療関連学会協議会インペラ部会の調べによると、インペラの使用状況としては、2017年10月から2019年1月までの集計で、392症例が実施されている。疾患の内訳としては、心筋炎・心筋症(計172例、44%)、AMI(161例、41%)などに使われている(表)。

2017年10月上旬に大阪大学で国内第1例目となるインペラを使用した急性心不全治療が行われた。患者は、50代(男性)の拡張型心筋症で、薬物治療抵抗性の急性心不全増悪を呈したため、インペラを使用した治療を行い、血行動態の著明な改善が認められた。

インペラの使用については、心臓血管外科専門医認定機構の基幹施設である、心臓血管外科、循環器内科医、集中治療医などで構成されたハートチームがあり、補助循環治療の体制が整備されているーなどといった実施施設認定基準が設定されている。インペラは、施設認定を受けた後、スタッフが規定の研修を受けた後に使用できる。実施施設は2019年7月現在で133施設に上る。ここにきてインペラの実施施設が急激に増加しているが、実施希望施設において、こうした準備態勢が整ったからとみられる。

インペラの保険償還価格は1本259万円。診療報酬(技術料)は、初日は11,000点、2日目以降は3,680点となっている(2019年9月末現在)。

図1.インペラのポンプカテーテルと制御装置

図2.左心室に留置されたインペラのポンプ部分のシェーマ

左心室からモーターによって血液を汲み出し、大動脈内の吐出部から血液を送り出す(日本アビオメッド提供)

表.インペラの使用状況
(補助人工心臓治療関連学会協議会インペラ部会資料)